『洞窟おじさん』

洞窟オジさん (小学館文庫)

洞窟オジさん (小学館文庫)

 

 世の中、新しくて便利なものが増えている。
 "このままでいいのだろうか……"という疑問が頭にぽっこりと浮かぶんだ。
 そのたびに原点を、洞窟時代の数年間の生活を振り返ってみるんだ。
 おれは洞窟でシロとともに生き延びてきた。洞窟には明かりなんてなかった。朝陽が昇って目を覚まし、大洋が沈めば眠る。食料を得るために野山を駆け巡った。自ら捕った魚や肉を焼くときは、火をおこし、燠をつくり、味付けも塩としょうゆぐらいしかなく、寝床も草やわらだった。おれはそれでも幸せだったし、不便とも思わなかった。

すごい内容だったなあ、加村一馬『洞窟おじさん』

昭和35年、13歳の加村少年は両親の折檻に耐えかねて家出をします。足尾銅山にむかって線路伝いに歩いていると、2日後、愛犬シロが追いかけてきました。シロと少年は山の洞窟で暮らしはじめます。スコップ、ナイフや塩・醤油を持ち出し、食べられるキノコの種類を知っていた(ただし松茸が食べられると知らなかった)など、多少のアドバンテージはあったものの、一からの狩猟採集は苦労の連続だったに違いありません。彼は落とし穴や罠を工夫してイノシシやウサギや鳥を捕ります。クマに襲われたときは大ピンチでした。

まるっきり狩猟採集生活ですが、世界に点在する狩猟採集民と違うのは仲間がいないことです。シロが死んでから、彼は山を下りて金を稼いだりしました(ただし金の使い方は知らない)が、生きていることがむなしくなり、自殺を試みます。富士の樹海に入って死体を見つけるところはなかなかすさまじかった。その後は川の近くでホームレスになり、釣りの名人として知られるようになります。放浪生活は43年も続きました。

人と交流するようになってからさまざまな文明社会と接触し、驚きます。金銭の使い方を覚え、米の炊き方を教わり、宮崎から来たホームレスから文字を教えてもらい──まるで、無文字社会の穴居人がここ1万年の人間社会の変化を駈け足で体験しているかのようです。親切な人と出会い、ときに騙される。最終的には、いい人たちに恵まれ、働きはじめました。現在、加村さんは無農薬で大粒のブルーベリーを作っているそうです。


【追記】おお、これは最近の記事ではないか。お元気そうでなによりですけど、あまりお菓子を食べすぎないでくださいね。