『ヤノマミ』

ヤノマミ (新潮文庫)

ヤノマミ (新潮文庫)

 

国分拓『ヤノマミ』(新潮文庫)を読みました。著者はブラジルのヤノマミ保護区・ワトリキに暮らす南米・ヤマノミ族のドキュメント番組を制作した方です。

ブラジルとベネズエラの国境に住んでいるヤノマミ族は、移動型の初期狩猟採集民ではありません。複雑な狩猟採集民(尾本恵市『ヒトと文明』の分類による)の段階でしょうか。

著者が暮らした集団は160人。山極壽一・京都大学総長は、人の脳は1500ccで、一緒に暮らせるのが150人である、それはマジックナンバーだ、とあちこちで言っています(→ナショナルジオグラフィック)。つまりそれ以上になると、村落社会に移行するか、集団が分裂するのでしょう。

彼らは好戦的らしい。部族間抗争をするという報告があり、ワトリキにも敵を殺した人がいます。それを人間が本質的に暴力的である証しだという学者もいるようですが、判断保留です。1952年に書かれたラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』にはすでに農耕的村落社会をいとなむインディオがたくさん出てきますが、最初から好戦的なインディオはいないんです。もちろん、ラス・カサスが西欧人の虐殺をより強調するために、インディオをよく描いた可能性もあります。

世界が層になっているという考え方はピダハン族と共通していました。シャーマンはいろんな層を往来できます。上のほうにいるのは「精霊」です。

現在、ヤマノミはブラジル政府が指定した先住民保護区に住んでいます。近くにカトリック信者の白人(ブランコ)が詰めている保健所がありました。

そこで暮らす前、ヤノマミは何世紀もの間「文明」の隣に暮らしてきました。白人(ブランカ)が持ち込んだ病原菌で多くの人びとが死に、ガリンペイロ(金鉱採掘人)に殺された歴史を持ちます。ヤノマミは一方で文明を敵視しますが、影響されないわけがありません。ずっと前から鉄器を使い、銃も持ちます。

次のリーダーと目される青年は、都会の教育を受け、ポルトガル語も話せるようになりました。彼は家族とともにシャボノから少し離れた小屋に住み、戸には錠前が付けてあることに著者は驚きます。《ワトリキのなかで、殆どここだけに、確固たる私有の概念があった》──私有財産が生まれるのは農耕後のこと。つまり、彼は都市の学校で「私有」という未来の概念を持ち込んだのです。

著者とカメラマンがトラウマになるほどショックを受けたのはヤノマミの堕胎でした。

臨月を迎えた女性は森の中に入って出産します。生まれたての子どもは精霊です。それを人間にするか精霊のままににするかを決めるのは母親の一存で決められます。養育するか、間引くか(産後だが堕胎に等しい)。天に返す場合、首を絞めた「精霊」を白蟻の巣に納め、蟻に食べさせます。そして、数週間後そこに戻って白蟻の巣ごと焼き払うのです。

著者とカメラマンは、新生児の首を絞めるところを目撃してしまったのでした。

ワトリキの近くにカトリック信者の保健所ができて、栄養剤を与える医療活動が始まったことで乳児の死亡率が30%から2%に改善されたそうです。それは現代医療による恩恵です。しかし皮肉なことに、精霊として天に送るケースが増えたといいます。

著者は人類学者ではないので学問的・形而上学的なところまで語りませんが、わからないものをムリにこじつけないところは好感が持てます。私が知りたい初期の狩猟採集社会とは少し異なりますが、ヤノマミの暮らしも現代社会を見直すヒントになります

NHKのドキュメント、これを読むまでは見るまいと思っていましたが、近いうちに。